【小説コラム:第1回】過去の名作をもう一度「新釈 走れメロス」

森見登美彦が描く過去の名作

新釈 走れメロス 他四篇 (角川文庫)

「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話大系」など、アニメ化や映画化などで多くの注目を集めている森見登美彦氏。

そんな彼が過去の日本文学の名作を5本選び、現代に置き換えて一冊の本にしたものが「新釈 走れメロス 他四篇」である。

収録されている作品は
・山月記
・藪の中
・走れメロス
・桜の森の満開の下
・百物語
の5本。

一度は目にしたことがあるタイトルのラインナップだと思う。しかし森見氏の独特な言い回しで書かれる名作たちは、全く新しいものへと生まれ変わっている。

その中でも今回は、主題ともなっている走れメロスについて感想を綴っていこうと思う。

約束を守ることが友情ならば、全力で破ることもまた友情の形 「走れメロス」

皆さんご存知であると思われる「走れメロス」。
自分の身代わりとして差し出した友人のため、約束の日にちまでに王の元に帰り、信頼というものは決して幻想ではない。
ということを教えてくれる作品だ。

さて、本作のメロスは大学生。
しかもただの大学生ではなく、阿呆な大学生である。
阿呆な大学生・芽野が大学の秩序を無理やり守ろうとする長官との争いが今作の大筋。

キャラクターの関係性は同じだが、争う内容がとても面白い。メロスは約束を守るために王の元に戻る。しかし、主人公・芽野は約束を全力で破るために京都市内を逃げ回るのだ。
約束を破る芽野、約束を破ると信じている親友・芹名、なんとしても守らせようとする長官。
テーマを逆にするだけでこんなにもユーモラスが溢れた物語になっていく。

森見氏の作品ではお馴染みの詭弁論文なども登場し、ファンとしては細かい設定も嬉しい限りだ。

森見氏の作品は全て目を通しており愛読書としている私だが、なぜこんなにも魅力を感じているのだろうと考えてみる。

それはあの独特な、くどいとも思わせるがテンポ良く進む文体ともう一つ。特に将来に希望もなく、女性に幻想を抱く童貞感丸出しの、いじらしく決して可愛らしくもない大学生が主人公であるということ。
決して認めたくはないが、心のどこかで自分と重ねてしまう。

ただ一つ異なる部分があるとすれば、私の前には黒髪の乙女が一向に現れる気配がない、と言ったところであろうか。