あくびの伝染は共感力が発達した証拠
自分はあくびをしたくないのに、他人のあくびを見てついあくびが伝染してしまうことはよくあります。このあくびの伝染は人間特有のものと考えられており、共感力の発達がカギになると考えられています。
人間以外の動物ではほとんど見られない
人間以外にあくびをする動物には、熊やコウモリ、ネズミや犬、猿などがいることが知られています。あくびをする理由は人間とあまり変わらないと考えられますが、人間のようにあくびが伝染する現象はあまりみられません。
犬やチンパンジーなどでは一部あくびがうつる現象が確認されています。これは、比較的知能が高く共感力が発達していて社会的コミュニケーション能力に秀でていることが理由と考えられます。
5歳未満の子どもでは見られない
あくびの伝染には共感力の発達が必要となります。そのため、人間であっても5歳未満までの子供には、他人のあくびを見て自分に伝染することはほとんどみられません。
その頃までは個の世界で生活しており、5歳を超えると徐々に社会的なつながりを形成し始めるからだと考えられます。
そもそもあくびが出る理由って?
1日のうちに一度もあくびをしない人は珍しいのではないでしょうか。起床や就寝の前後、仕事中や夜遅い時間帯など、あくびがでやすい時間もありますが、そもそもあくびが出る理由は何なのでしょうか。
疲れている
疲れているときに最もあくびがでやすいと感じる人は多いでしょう。仕事に集中していると疲れからあくびが出ることがあります。また、長時間にわたって作業をしたり、スポーツをしたりした後に出ることもあるでしょう。
強い疲労感を感じると自律神経のバランスが乱れ、それがあくびにつながると考えられています。疲れている際にあくびをすることによって、脳が最適な状態で機能することを続けようとするのでしょう。
寝不足
睡眠時間が足りない寝不足の状態になるとよくあくびが出ます。眠いためにあくびが出やすくなると思っていますが、実際にはあくびは眠りを妨げて脳や体を覚醒させようとしていると言われています。
覚醒レベルが低下するとあくびをして脳を覚醒させようとします。寝不足の際は眠気を排除しようとあくびがよくでます。大きく息を吸うことよりも口を開けることであごや気道を動かし、血流を促進して脳を覚醒させようとしているのでしょう。
酸素が足りない
体内に酸素が不足することからあくびが増えることもあると考えられています。あくびは無意識に口を大きく開けながらたっぷりと酸素を取り入れます。深呼吸するのと同じようにあくびをするのであれば血中酸素濃度を上昇させることができるでしょう。
しかし、ある実験では室内の酸素や二酸化炭素の濃度を変化させてもあくびの発生頻度に影響はなかったとの報告もあります。このため、現在では酸素を求めてあくびをする説には否定的な見解が多くなっているようです。
あくびがうつる原因
自発的にあくびをするのにはさまざまな原因があります。しかし、自分にはあくびをするつもりがないのに、人があくびをするのを見てうつってしまう原因ははっきりとしていません。あくびがうつる原因とされるいくつかの説を紹介します。
親しい相手に対する共感説
あくびがうつる原因として、親しい相手に対する共感や関心がベースにあるとするのが共感説です。共感とは簡単に言うと他人の気持ちになることですあくびがうつる際には、共感に関係する脳の部位の働きが活発になることからも共感によってあくびが伝染すると考えられています。
また、肉親や夫婦など身近で親しい間柄である方があくびがうつりやすい実験結果も報告されています。友人や恋人など家族以外でも親しく共感できる間柄であれば、あくびがうつりやすいと言えるでしょう。
他者と同じ行動をとってしまう行動伝染説
いわき明星大学の大原准教授は、あくびがうつるのは他者と同じ行動をとってしまうためであるとする行動伝染説を唱えています(参考:「 行動伝染の研究動向:欠伸はなぜうつるのか」)。行動伝染とはあくびに限らず、他者がとっている行動と同じことをしてしまうことです。
行動伝染説では「いつも笑っている人の近くで過ごしていると自分も自然に笑顔になる」笑いの伝染もあるとされています。また、他者の行動だけでなくあくびに関する文章や絵などをみてもあくびがうつるため、情報による伝染もあると考えられます。
カメレオン効果説
あくびがうつる原因をカメレオン効果説で説明する人もいます。カメレオン効果とは、社会心理学現象の1つで、周囲の環境に溶け込むことによって社会的な安心感を得ることです。
相手に良い印象をもってもらいたい、同じ行動をすることによって同じ仲間だと思われたいと願うことから、相手の行動をまねます。自然現象としてあくびがうつるのではなく、潜在意識などから実は意図的に自らあくびをしていると考えられています。
あくびがうつりやすい人の特徴
あくびがうつる理由にはさまざまな説があります。なかでも社会的コミュニケーションや共感力はキーワードとなりそうです。では、あくびがうつりやすい人にはどんな特徴があるのでしょうか。
家族や友達、恋人など親しい間柄の人
あくびは、家族や友達、恋人など親しい間からの人同士でうつりやすいと考えられています。チンパンジーや犬など、群れで生活する習性のある動物の一部では人間と同じようにあくびの伝染がみられると言います。これは、グルーミングなどをしあえるごく近しい間柄で起こると考えられており、人間にもあてはめることができます。
人間は特に共感能力に関係する前頭葉が発達しており、親しい間柄であるほど共感力が高くなる傾向があります。
他人に関心がある人
日頃から他人に対して興味・関心が高い人はあくびがうつりやすいと言われています。あくびがうつる現象には社会的なコミュニケーション能力や共感力が関係しているため、誰からでもうつるわけではありません。気を許した共感しあえる親しい人からうつりやすいのが一般的です。
しかし、他人に対して関心が高い人は常に他人を観察する傾向があり、自分に近しい人間であると思い込むことがあります。したがって、他人に関心がある人は、特に親しくなくてもあくびが移りやすいと言えます。
共感力の高い人
人の感情に同調しやすい感受性や共感力の高い人もあくびがうつりやすいと言えます。共感力の高い人は、自分の感情に起伏がなくても周りの人が泣いたり、怒ったりするといつのまにか同じ感情をもつことがあります。
他人の事を自分の事としてとらえやすい体質であるため、感情だけでなく口癖や仕草のクセを知らない間にまねしていることもあるでしょう。目の前であくびをされると高い確率であくびがうつってしまうこともあるようです。
動物にもうつるあくび
あくびをする動物を見たことがあるでしょうか。あまり多くはありませんが人間と同じようにあくびをする動物はいます。また、犬や猿などではあくびがうつる現象も確認されています。特定の動物であくびがうつりやすい理由などについて説明します。
犬・チンパンジーのあくびもうつる
あくびは人間だけでなく、哺乳類や鳥類、爬虫類などでもみられる現象です。人間以外ではあくびが伝染することは少ないとされていますが、犬やチンパンジー、オオカミなどではあくびがうつることがわかっています。
あくびがうつる理由にはコミュニケーションの一環、共感、などの説があります。犬やチンパンジーなどはもともと群れで生活する社会性のある動物であるため、人間と同様にあくびがうつるのでしょう。
口を開けるだけでもうつりやすい
あくびがうつりやすいのは理解できますが、実際にあくびをしなくても口を開けるだけでもあくびがうつりやすいのでしょうか。2004年に英国王立協会報に掲載された論文「チンパンジーにおけるあくびの伝染」では、あくびの伝染に関する実験の報告がなされています。
複数のチンパンジーがさまざまなポーズであくびをするシーンを見せたところ、高い確率であくびが伝染することが明らかになりました。あくびをしなくても口を開けているシーンを見せてもあくびをしてしまう実験結果も報告されています。
まとめ
眠いわけでも疲れているわけでもないのに、人のあくびがうつってしまうことがあります。あくびがうつる理由にはさまざまな説があり、その1つには共感力の高さから犬やチンパンジーもうつるとするものもあります。
あくびは親しい人からうつりやすいものですが、共感力や他人への関心が高くてよくあくびをしてしまう人もいるようです。