「根本的には人は変われない」女装小説家・仙田学が語る理解しあえない男女の関係

ひどい言葉を投げかけてきたり、暴力的なふるまいをする男性の気持ちは、理解したくてもなかなかできないもの。

ちょっとした価値観の違いから、過度の飲酒や性的嗜好まで「女性から見ると、理解できない男性の言動」はたくさんあります。

そんな時に知っておきたいのが「理解できない男性との向き合い方」。ひどいふるまいをする男性が、何を考えているのかを知り、距離の取り方を見直すだけでも心がぐっと楽になります。

そこで今回は、文芸誌『文藝 2019年夏季号』に最新の中編小説『アイドル』を掲載。女装小説家としても注目を集める、小説家・仙田学さんにお話を聞きました。

自身もアルコールと性に依存した経験を持つ仙田さん。仙田さんは「人は根本的には変われない」とも語ります。自身の実体験と「理解できない男性を、それでも何とか理解したい女性へのアドバイス」を伺いました。

女装小説家が回想するアルコールと性におぼれた20代「自分の背後を振り返ると、暗闇が広がっていた」

—– まず仙田さんご自身の、アルコールに関する経験を教えてください

20歳前後の頃に、アルコールにどっぷり浸かりました。アルコール依存の自助グループに通った経験もあります。

—– 20歳前後ということは、まだ学生だったのでは?


そうですね。当時、僕は大阪芸大に通っていて。

父は高度経済成長期の人間で、典型的な「良い大学に入って、良い会社に入れば幸せな人生が待っている」という考え方の持ち主でした。小さなころから僕は父に抵抗を感じていて、父親とは全く違う「自分だけの価値観」をそういう古い考え方にぶつけたかったんですよね。だからこそ芸術系の大学に進むことを決めたんです。

でも、大阪芸大に入ったら何もかもうまくいかなくて。学生時代に漫画も描きましたし、映画も撮りました。でも全然いいものができなくて「表現するのに向いてないんだな。もうやめるべきだ」と真剣に考えて。

—– 小説家として活躍している仙田さんにも、そんな時期があったんですね。

そしたら、まったく学校に行けなくなったんです。「自分にしかない、自分だけの価値観をぶつけたい」と思って大阪芸大に入ったのに、何もできない。「なんとか自己を確立したい」という思いがあるだけに、どんどん自分自身への焦りが生まれてきて。

—– とても苦しい経験ですよね……。

本当に苦しかったです。だから、自分は苦しさに目を向けたくなかったんでしょうね。そこからは、もう昼からお酒を飲む生活です。

—– ……。

アルコールは恐ろしいですよ。いつの間にか一日が終わり、一週間が終わり、週の終わりに「この一週間、何してたかな」と振り返るじゃないですか。

何も思い出せないんです。自分が一週間、何をしてたかわからない。自分の背後を振り返ると、一面の暗闇が広がっている。そんな感覚でしたね。

性を通じて人生で大切なことを学んだ。だが「すべて間違いだったのかもしれない」

—– 仙田さんは性におぼれた経験もお持ちと聞いています。具体的にどんなことを経験したのですか?

性に対し、依存的になっていったのは27歳前後のことです。大学院に通ってフランス語とフランス文学の作家の研究をする一方で、小説家として早稲田文学新人賞を受賞し「父親とは違う自分を確立できた」という自信が深まった時期です。

—– 当時はめちゃめちゃ楽しかったのでは?「すべてがうまくいっている」というくらいの、大きな手ごたえがあったんじゃないでしょうか。

自分の表現が、社会的な生産物として受け入れられたことに手ごたえがありました。自分の表現が社会性を持つことに対し、誇らしいような心持ちだったかもしれません。とにかく、自分の気持ちに余裕ができた時期でした。

実は、その年齢まで僕はあまり女性に興味がなかったんです。

自分を確立したいという焦りで精いっぱいだったので、彼女がいた時期もありますが、女性に対して夢中になることはなかったです。

—– ちょっと意外です。

そんな状況が変わったきっかけは、ファミレスで出会った女の子です。

大学院の勉強をファミレスでやっていた時期に、いつもお店で会う女の子がいて。本当に毎日のように見かけたので、ある日話してみたら仲良くなって。半年くらいは付き合ったかな。本当に可愛くて、大好きでした。ただ専門学校生だと聞いていたんですけど、実は風俗嬢だったことが分かって。トラブルにも発展してしまったので、関係が終わりました。

それを境に次々、女の子と関係を持つようになりました。それだけ聞くと、読者の方は「この男は、女の子にしか興味がない」と思うのでしょうが、ちょっと違います。もっともっと、生きていく上で大事な経験を得たと思っていました。

—– もっと詳しく聞かせてもらえますか。そうした経験から、仙田さんが学んだことは何だったのでしょう?

たとえばナンパをして、僕についてくる女の子がいるじゃないですか。そういう女の子って、僕のことを何も知らないわけです。女の子は、僕の地位や名誉やお金に惹かれたわけではないってことです。そういうものじゃなくて、僕の存在に魅力を感じてくれた。だから僕についてくる。

性を通じていろいろなことを学び、当時はものすごく精神的な満足を感じていました。当時の僕の考え自体、何かの勘違いだったのかもしれないとも思います。満足感が錯覚だったかもしれないので。でもその時は、本当にそういう感覚だったんです。

—– 女性をナンパする男性や、性に奔放な男性は必ずしも「セックス」を目当てにしているわけではないってことでしょうか。

僕は、性依存の自助グループにも足を運んだ経験があります。性依存的な男性が「たくさんセックスしたがっているか」というと、必ずしもそうじゃないです。

「ついつい仕事中にエロ画像を見てしまって、そのまま毎日何時間も経つ」という人。「いろんな喫茶店を回っては、じろじろと女の人を見てしまう」という人。これだって性依存です。

—– つい仕事中にエロ画像を見るというのは、性的な欲求を公の場で抑えられなくなってる状態ですよね。

自助グループで感じたことは「セックス」は性依存の本質ではないということです。本質は性的欲求のコントロールができるか否かにあると思います。

—– 仙田さんはどのように欲求のコントロールを身につけたのでしょう。

いろいろな段階がありますよ。たとえばアルコールの場合だったら、ある時に行った家族旅行が大きなきっかけになりました。

家族と一緒に、福井県の東尋坊に旅行に行ったんです。

でも僕は道中、ずっとウイスキーを飲んでいて。そうして酔った状態で東尋坊に到着したら、母親の前で崖から落ちそうになったんです。「家族旅行で死ぬのはまずい。母親の目の前で死ぬのは、絶対にダメだ」ととっさに感じました。その時はなんとか転落は免れて。その経験をしてから、お酒をセーブできるようになりました。

暴力的な人に解決策を与えることは「根本的には、無理だと思います」

—– 男性から女性への暴力は、女性にとって最も理解しがたい言動の1つです。DVなどをする男性の心理とはどういうものだと、仙田さんは考えていますか?

暴力的な人は、本質的には「不自由」なんです。毎日、我慢し続けているのでしょうね。

—– 暴力的な人は「自分勝手」なイメージがありますよね。でも必ずしもそうではなく、むしろ自分を抑え込んでいるのですか?

たとえば「おれはこんなに一生懸命仕事をやっているのに、なぜ提案が通らないんだ」というような、ストレスを感じ続けているのでしょう。

我慢しきれなくなると、子供だったら大声で泣きますよね。これと大人も同じです。大人も、一瞬子供に戻るんです。

でも大人になると、人はなかなか泣けなくなるものです。でも、言葉にできない感情はある。その抑圧が暴発して、暴力的な行為を引き起こすんです。

僕の場合は、抑圧された気持ちが自分自身に向かいました。この暴発の形が、アルコールや性行為だったんです。

—– 暴力的な感情や振る舞いに、ストッパーをかけることはできるのでしょうか。

根本的には、無理だと思います。

たとえば小説で暴力的な人物を描くとき、僕はそのキャラクターに「解決策」は与えません。結局、本質的にはこういう問題を解決することってできないと思うんです。

—– というと?

物語に暴力的な人物が出てくるとします。この人物にとっての解決策の1つは「暴力的な行為をしないようになる」ということですよね。こういった解決自体は、たしかにあり得ると思います。

ですが、そもそも暴力を引き起こすのは「抑圧されている記憶や感情」です。この抑圧そのものを解消することって、まずむずかしいと思いますね。

僕の場合「小説を書くこと」が、自分と向き合う上で本当に大切なことでした。実際、小説を書きだしてからアルコールをセーブできるようになりましたし、父親とのしがらみも多少はましになった気がします。

ですが、そもそもの抑圧を解消できたかというと……。何度も言いますが、やっぱりむずかしいです。自分の根本的な体質は、何も変わってないと思います。

帳尻が合わない人生に、一部の男性は耐えられない

—–性やアルコールなど、何らかのものにすがってしまう男性の特徴はなんだと思いますか?

生き方が不器用で、へたくそなんですよ。

—– 世渡りがへたということですか?

「無理をしている」ということです。

「いい人と思われたい」だとか「仕事でもっと良い業績を上げたい」と考えすぎて、空回りしているんです。等身大の、本当の自分のことを受け止めきれていないんでしょうね。

理想の自分と本当の自分を比べると、本当の自分って「帳尻が合わない」存在ですよ。帳尻が合わない自分に目を向けると、誰だってつらいですよね。これって男性に限らないことです。

—– 「本当の自分」なんて、理想の自分と比べればたいてい情けないものですよね。それでも、みんなごまかしごまかし生きていく。

普通の人は、そのあたりの帳尻をうまく合わせられるんですよ。スポーツで汗をかいて、良い感じにリフレッシュしたり。

でも、不器用な男性はそれでは埋まらないんです。スポーツ程度じゃダメで、頭が真っ白になるくらい何かに依存しないとやっていけないんです。その対象がたまたまアルコールだったり、性だったりするケースがあるというだけです。

それでも男性心理を理解したい女性は何をするべきか「理解するな。宇宙人だと思え」

—– 彼氏・夫の浮気や不倫、DVに悩む女性が「それでも何とか、男性の心理を理解しよう」と考えているとします。こうした状況に置かれた女性は、まず何をすべきですか?

絶対に一線を引いてください。「私がいないと、この人はダメになる」とは考えないことです。

—– 女性の支えが、男性にとって逆効果になるケースがあるってことですか?

ええ。男性は何かを失うことで、それがどれだけ大事なものだったかわかったりするものなんです。

—– 距離を置く方がよいケースもあるのですね。

たとえば相手と一緒に住んでいるなら、自分が家を出るのもありです。少なくとも、女性自身が精神的に自由であることが大事です。

相手に依存することなく、自分自身を確立してください。たとえば「好きなものが明確にある」というのはとても大切ですね。相手に合わせて、自分を抑圧してがまんするのはダメです。

—– 「親身になって相手を理解しよう」と思うのは、よくないですか?

「理解できないけど、認める」というスタンスでいましょう。理解できない男性のことは、宇宙人だと思ってください。

—– 理解できない男性の言動に振り回される女性は、逆に男性に依存している可能性もあります。依存を断ち切るために必要なことは何だと考えますか?

「信頼できる第三者」が必要ですね。この第三者は、家族ではダメです。友達もダメです。

—– 家族も友達もダメなんですか……。

家族は「自分の味方」ですから、第三者とはみなせないですよね。

—– たしかに。友達がダメな理由はなんですか?

友達だからといって、良き相談相手になるとは限らないです。たとえば「変な友達」はこういったシチュエーションでは、あまり相談相手としてよくないです。信頼できる専門家に相談するのがベストですよ。

中島らも夫妻に学ぶ「問題を抱えながらも、支えあって生きていく」人生

—– 付き合う前に、女性が男性の問題点を見抜くことは可能でしょうか。

痛い経験をしないと見抜けないです。

たとえば、僕は付き合ったら振り回されるであろう女の子はたいてい見抜けます。なぜなら、僕自身がいろんな女の子に振り回されて、痛い思いをしてきたからです(笑)。

痛い経験をせずに、問題を事前に見抜くのは無理ですね。

—– でも、女性からすればできれば痛い思いはしたくないものです。

「問題」というとネガティブなことのようですが、夫婦やカップルの関係性によっては「問題が、問題にならない」ことだってありえます。

たとえば、僕は小説家の中島らもさんがすごく好きです。小説を読んでも、エッセイを読んでも、残したキャッチコピーを読んでもかっこいい。人間というより、怪物に近いような迫力を感じます。中島らもさんは大阪芸大の大先輩でもあるので、学生時代の僕は、酒を飲みながら中島らもさんの本ばかり読んでました(笑)。

—– 背中を追ってたんですね。

中島らもさんは様々な病気を抱えてめちゃくちゃな生涯を送った、まさしく女性にとって「理解できない男性」です。

でも、実際の中島らもさんは最期まで隣に奥さんが寄り添っていました。二人の間にはたしかに愛があって世の中では問題とされるようなことも、その関係性の中では「問題」ではなかったのだと思います。

このように「痛い経験をすること」が、人生の豊かさにつながるケースだってあります。もちろん共依存的になることはよくないですし、男性との間に一線を引くことは前提です。その上で、問題を恐れすぎないことも大事です。

理解できない男性の言動に悩む女性へのアドバイス

—– 彼氏・夫の理解できない言動に悩む女性に向けて、アドバイスをお願いします。

まずは自分を大事にしてください。自分の自由が侵害されそうになったら、真っ先に逃げましょう。とにかく自分を守り、相手に依存しない「自分自身」を確立してください。

とはいえ「自分を確立する」には、何をすればいいかわからない人もいるでしょう

別に「自分を確立する」ためには、特別なことは必要ないです。ぴんと来るようなことがないなら何もしなくていいです。寝っ転がって、ぼんやりしているとおなかが空きますよね。その時に「私は何を食べたいだろう」と考えたり、実際にメニューを作ってみる。これだけでいいんです。

自分の中から、自然とやりたいことやアイデアが浮かんでくるのを静かに待ってあげてください。そのことが自分を幸せにしてあげるための、大きな一歩になります。

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