肥満遺伝子について
肥満遺伝子とは、本来は脂肪を燃焼したり、食欲を抑えたりするために作用する遺伝子が何らかの理由によって異常をきたし、肥満を防ぐことができなくなってしまったものを指します。肥満遺伝子には100種類以上のものがあるとされており、なかでも日本人に関係する主な遺伝子として3つのタイプがあることが知られています。
ベータ3アドレナリン受容体などの3つの遺伝子の異常がその代表的なものであり、なかには日本人の3分の1に遺伝子の異常がみられるものもあります。
専用のキットがあれば簡単に調べられる
日本人の3分の1に遺伝子の異常があるという話を聞けば、自分がどんな肥満遺伝子を持っているのか気になるでしょう。遺伝子ということばから、調べるためには病院を受診しなければならないイメージがありますが、市販の肥満遺伝子検査キットで簡単に調べることができます。
検査方法はいたって簡単なものであり、DNA検査をするのと同じように頬の内側の粘膜を綿棒でこすり取ったり、爪の一部を採取したりするだけで、3つの遺伝子の異常について調べることが可能です。検査後、専門業者に送付すれば1週間ほどで結果を得ることができるでしょう。
肥満遺伝子は101種類もある
日本人にとっては関りの深い3つの肥満遺伝子が有名ですが、肥満遺伝子には実にさまざまなものがあり、現在、世界で認知している肥満遺伝子は101種類に及びます。種類は多いものの実際に詳しく研究されているものは少なく、国内でおいては56種類ほどしか研究されていないとされています。
さらに、1つの遺伝子の変異のみで肥満になることが明らかにされている肥満遺伝子は10種類ほどしかなく、今後さらに解明が進んでいくものと考えられます。
食事制限や運動をしても痩せない理由がわかる
肥満遺伝子によって太りやすい体質かそうでないかが決定されることが多いため、食事制限や運動をいくらやっても効果的に痩せないことがあります。思うような結果が得られなければ、さらに運動量を増やしたり、摂取カロリーを減らしたりすることがありますが、場合によっては体調を崩す原因となってしまうこともあるでしょう。
日本人の3分の1が何らかの遺伝子異常によって肥満遺伝子を持っている状況にあるということを踏まえて、まずは自分の肥満遺伝子のタイプや太り方についての特徴をよく理解して、効果的な対策を立てることが大切です。
肥満遺伝子の4つのタイプに分けられる
肥満には、一見するとほっそりしている隠れ肥満やぽっこりお腹、下半身太り、などさまざまなタイプがあります。食生活や運動不足によってそのような違いがあると認識している方もいらっしゃるでしょうが、実は、それぞれの太り方のタイプは、持っている肥満遺伝子によって決定されているものです。
典型的な肥満のタイプには、洋なし型、バナナ型、りんご型の3つがあると言われており、それぞれ深く関わっている肥満遺伝子があります。また、日本人には少ないものの、3つの肥満遺伝子に当てはまらないアダム・イブ型と呼ばれるタイプもあります。それぞれのタイプについて説明します。
洋なし型(UCP1)
洋なし型肥満とは、内臓脂肪よりも下半身を中心とした皮下脂肪がつきやすいタイプです。上半身はそれほど太っていないものの、下半身だけが異常に膨らんで見えるタイプで女性に多くみられます。洋なし型は、脂肪細胞のひとつである褐色脂肪細胞内に存在する共役タンパク質1(UCP1)という脂肪を燃焼する働きがはる遺伝子に異常をきたすことによって太るものです。
本来は熱を産生して体温を維持したり、余分な脂肪を燃焼させたりする働きがある遺伝子に異常があるため、脂肪燃焼機能が低下して肥満傾向が高まると言われています。この遺伝子の異常は日本人の約25パーセントにみられると言われています。
バナナ型(β2AR)
バナナ型は、一見するとひょろっとした瘦せ型の人に多くみられるものです。他の型のように肥満が目立つタイプではありませんが、体脂肪を測定すると意外に脂肪量が多いことがあります。バナナ型は、ベータ2アドレナリン受容体(β2AR)の遺伝子に異常があることが原因となります。
β2ARは、本来アドレナリンと結合して中性脂肪を分解、燃焼しやすくする働きがあるものですが、異常があるためにタンパク質を上手く活用できなくなります。このタイプは肥満にはなりにくいものの、タンパク質を活用して筋肉をつけることもできないという特徴があります。
りんご型(β3AR)
りんご型肥満は、お腹の部分に内臓脂肪がついて出っ張ったような型の肥満です。中年太りと言われる男性にも多くみられるもので、加齢ととともになかなか脂肪が落ちにくいものとなります。りんご型は、ベータ3アドレナリン受容体(β3AR)の遺伝子に異常をきたすことが原因となって太りやすくなるものです。
β3ARには、脂肪細胞などに存在しており、β2ARと同様にアドレナリンと結合して、中性脂肪を分解、燃焼しやすくする働きがあります。遺伝子に異常があることで、受容体としての機能を発揮することができず、分解されなくなった中性脂肪が蓄積されて肥満につながります。
アダム・イブ型
肥満細胞は現在のところ世界で101種類あるとされており、日本で研究が進められているのが56種類、そしてそのなかで日本人に深い関連がある肥満遺伝子が3つあります。ほとんどの日本人の肥満遺伝子はこの3つのタイプに分類されますが、なかには3つの肥満遺伝子をひとつも持っていない人もいます。
アダム・イブ型肥満遺伝子とも呼ばれており、遺伝子レベルでは太る要素はないのですが、生活習慣や食生活によって太るタイプであると言えるでしょう。
肥満遺伝子の本
これまで何度もダイエットに失敗した方にとっては、肥満が自分が持っている肥満遺伝子によって決定され、そのタイプもいくつかに分類することができるという事実を知ると、まさに目からウロコの状態となるでしょう。
さらに肥満遺伝子のメカニズムや遺伝子、肥満体型によって効果的な食事や運動の仕方について詳しく学ぶことができるおすすめの本を紹介します。
最短で効く! 遺伝子タイプ別ダイエット 自分の「遺伝子型」を知れば、痩せられる
運動や食事だけで肥満をコントロールすることは難しいものであり、自分の遺伝子タイプに応じた痩せ方があることをわかりやすく説明している本です。日本人に多いりんご型、洋なし型、バナナ型の3つのタイプに応じた効果的な痩せ方について具体的なアドバイスがもらえるので、これまで何度もダイエットに失敗した人の強い味方となることでしょう。
欧米人の2~4倍の割合で日本人が持っていると言われている倹約遺伝子やタイプ別の具体的な食事、エクササイズを細かく解説しているため、すぐに実践に移すことができるでしょう。
遺伝子ダイエット
肥満は運動量や摂取カロリーだけでは解消することができない問題であり、やみくもなダイエットにはさまざまな危険性をはらんでいること、肥満は遺伝子レベルで決定されていることを知ることの大切さを説いている本です。
理論だけではなく、日常生活のなかで取り入れやすいダイエットのコツやポイントをさまざまなシーンを想定して紹介しています。肥満遺伝子で決められている体質に合った食事や運動の実践により効果的なダイエットができるサポートブックと言えるでしょう。
太りゆく人類―肥満遺伝子と過食社会
アメリカだけでなくアアジアで蔓延している深刻な肥満について、アメリカのサイエンスジャーナリスト、シェル,エレン・ラペルが書いた本です。人がなぜ太るのかについて、肥満に関連する化学進歩を解説しながら、その原因を探るもので、肥満遺伝子の発見や高肥満薬だけが肥満を解消するものではないと論じています。
肥満が意志の弱さの象徴とされた時代は過去のもので、リーズナブルな高カロリー食品の蔓延など、過食社会の構造自体が変わらないと肥満の解消はできないと警鐘を鳴らしています。
肥満は進化の産物か?: 遺伝子進化が病気を生み出すメカニズム
進化生理学、ゲノム進化学などを専門とする理学博士、颯田葉子氏の著書であり、人の病気の原因を進化の過程に求める進化医学に基づいて理論が展開されています。遺伝子の変化や変異がそのまますぐに病気をもたらすわけではなく、生活環境の変化スピードとマッチしていないことによって、発症するという独特の理論を述べています。
肥満に遺伝子に異常があるとすぐに太るということではなく、生活環境の変化のスピードと合っていないことによって徐々に遺伝子が進化するという視点は興味深いものと言えるでしょう。
まとめ
きつい運動や食事制限を続けているのになかなか痩せず、途中で断念したという経験は誰にもあることではないでしょうか。ダイエットの仕方が緩いわけではなく、太りやすい体質が遺伝子レベルで決定されていることを理解すれば、納得できるでしょう。
自分の肥満遺伝子や肥満型に合った食事療法やエクササイズを知れば、ピンポイントで効果的なダイエットをすることができ、体調を崩したり、リバウンドに悩んだりすることもないでしょう。